小学生でも分かるデシベル(dB)の話
3. フォースとパワーでdBの値は異なる
3.1. フォースとパワーの違い
デシベルと対数については、これで十分ご理解頂いたと思うのですが、実はデシベルを正しく使う上でまだ気を付けなければいけない事があります。
それは、フォースとパワーでデシベルの値が事なるのです。
多少専門的になりますが、この点についてもしっかり認識しておけば、鬼に金棒です。
突然ですが、フォースとパワーの違いは分かりますか?
いずれも日本語にすると”力”ですが、物理の世界では、以下の様に異なります。
種類\分類 | 音 | 電気 | 機械 | 電波 | 光 |
フォース | 音圧 | 電圧 | トルク | 電界強度 | N/A |
パワー | 音響パワーレベル | 電力 | 馬力 | 電力 | 光束 |
音圧と音響パワーレベルの違いと言われてもピンとこないと思いますが、電圧と電力の違いと言えば何となく分かりますでしょうか。
この違いを説明すると、フォースとは瞬間的な力、パワーとは一定時間に仕事をする能力と思って頂ければ良いと思います。
ですので、これを電圧と電力を例に説明すると、電圧とは触るとビリッとする瞬間的な力で、それに対して電力とは一定時間に光ったり/回ったり/熱したりする能力という訳です。
では、音における音圧と音響パワーレベルの違いは何なのでしょう?
専門書を読んでも良く分からないのは、この部分の説明が足りないからだと思いますので、分かり易くご説明したいと思います。
3.2. パワーとエネルギーは違う
でもその前に。
フォースとパワーの違いは大凡分かって頂いたと思いますが、今度はパワーとエネルギーを混同(一緒)にするケースも非常によく目にしますので、これについても触れておきましょう。
簡単な表を付けておきますので、違いが分からなくなったらこの表を思い出して下さい。
英語 | 日本語 | 意味 | 式 |
フォース | 力 | 物を押す力 | 力(質量×加速度) |
パワー | 力 (仕事率) (電力) |
単位時間に仕事をする能力 | 力×距離÷時間 |
エネルギー | エネルギー (熱量) (電力量) |
仕事をする(物を動かす)能力 | 力×距離 |
ワーク | 仕事 | 仕事をした(物を動かした)能力 | 力×距離 |
これをを見て頂く様に、エネルギーとはパワーに時間を掛けたもので、ワーク(仕事)と同じものです。
3.3. 音圧レベル(フォース)
それでは音における、”パワー”と”フォース”の違いを、じっくりご説明したいと思います。
先ず音圧ですが、これは耳に届く気圧差ですので、音源(目覚まし時計)からの距離や、周りの温湿度及び気圧、風の影響で変わります。
前述した図書館や電車の騒音或いは新聞、テレビ等で出てくる音の表示は全てこの音圧の事です。
そのデシベルの計算式は、以下の様になります。
音圧レベル=10Log(P2/P02)=20Log(P/P0)
何故ここでPとP0を2乗するかですが、例えば電圧の場合ですと、電圧(フォース)を2乗すると電力(パワー)になる事から、フォースを2乗すると後々辻褄が合い易いと思って頂ければ良いと思います。 (専門的に使う様になるまで、置いておきましょう)
なおP0とは、基準となる音圧で前記しました20 μPaです。
3.4. 音響パワーレベル(パワー)
次に音響パワーレベルとは、音源(目覚まし時計)から放射されるパワー(単位時間当たりのエネルギー)ですので、目覚まし時計からの距離や環境(気圧、温湿度、風)には一切影響されません。
文献を調べると、”音響パワーとは、ある面を単位時間に通過する音の全エネルギーで”と書かれているので、うっかりエネルギーを測定していると早とちりしてしまいますが、単位時間のエネルギーとは、すなわち(先ほどお伝えした様に)パワーになります。
そしてデシベルの計算式は、以下の様になります。
音響パワーレベル=10Log (W/W0)
ここでW0とは基準となる音響パワーで、10の-12乗W(ワット)を指します。
ここで注意しなければいけないのは、音響パワーレベルとは複写機やエアコンなど機械の稼働音を調べる目的で使われますので、それらの仕様書を見ない限り一般的には殆ど目にしないと思って頂いて構いません。
音圧は一般的な騒音計で簡単に測定できますが、音響パワーレベルは下の様に密閉された空間でしか測定する事はできません。
音響パワーレベル測定風景
余り良い例ではありませんが、室温は温度計で簡単に測定する事ができますが、部屋を暖めるストーブが発する単位時間あたりの熱量は簡単に測定できない事から分かって頂けるでしょうか。
3.5. 音圧レベルと音響パワーレベルの違い
長くなってしまいましたが、前記しました音圧レベルと音響パワーレベルとの式を並べて書くと以下の様になります。
音圧レベル=20Log(P/P0) ←フォース
音響パワーレベル=10Log(W/W0) ←パワー
すなわちフォースとパワーで、デシベルの計算方法が異なり、フォースの方がパワーの2倍デシベル表示が大きくなります。
具体的には、例えばカッコの中(P/P0とW/W0)の倍率がいずれも10倍だとしますと、音圧レベルでは20デシベルになり、音響パワーレベルでは10デシベルになると言う訳です。
なお、当然ながら音圧レベルと音響パワーレベルは全く異なるものです。
ですので、例えばエアコンの運転音(音響パワーレベル)が55dBで、一般的な会話(音圧レベル)60dBだから、エアコンの方が静かだというのは飛んでもない間違いです。
音圧レベルと音響パワーレベルを比べるのは、電圧(例えば100V)と電力(例えば100W)を比べる様なものですので、決して比較してはいけません。
3.6. フォースとパワーの倍率の違い
上記で説明しましたフォースとパワーにおける、デシベルの倍率を以下に示します。
デシベル (dB) |
フォースの場合の倍率 (電圧、音圧等) |
パワーの場合の倍率 (電力、音響パワー等) |
-3デシベル | 0.71倍 | 0.50倍 |
-2デシベル | 0.79倍 | 0.63倍 |
-1デシベル | 0.89倍 | 0.79倍 |
0デシベル | 1.00倍 | 1.00倍 |
0.1デシベル | 1.01倍 | 1.02倍 |
0.25デシベル | 1.03倍 | 1.06倍 |
0.50デシベル | 1.06倍 | 1.12倍 |
0.75デシベル | 1.09倍 | 1.19倍 |
1デシベル | 1.12倍 | 1.26倍 |
2デシベル | 1.26倍 | 1.58倍 |
3デシベル | 1.41倍 | 2.00倍 |
4デシベル | 1.58倍 | 2.51倍 |
5デシベル | 1.78倍 | 3.16倍 |
6デシベル | 2.00倍 | 3.98倍 |
7デシベル | 2.24倍 | 5.01倍 |
8デシベル | 2.51倍 | 6.31倍 |
9デシベル | 2.82倍 | 7.94倍 |
10デシベル | 3.16倍 | 10.00倍 |
20デシベル | 10.00倍 | 100.00倍 |
30デシベル | 31.62倍 | 1000.00倍 |
40デシベル | 100.00倍 | 10000.00倍 |
50デシベル | 316.23倍 | 100000.00倍 |
100デシベル | 100000.00倍 | 10000000000.00倍 |
注 | =10^(23/20) | =10^(23/10) |
前記した様に一般的にパワーはフォースを2乗して求められる(例えば電力=電圧の2乗/抵抗値)ので、フォースの場合とパワーの場合で倍率が異なるのに注意して下さい。
このため上表のフォースの倍率を2乗すると、パワーの倍率になるという訳です。
例えば、-3dBのフォースの倍率0.71を2乗(0.71x0.71)すると、パワーの倍率0.5になるという訳です。
なお上の表に無い、例えば23デシベルのフォースにおける倍率を調べたいときは、以下の式をコピーしてエクセルに貼り付ければ14.12538(倍)と表示されます。
=10^(23/20)
これでデシベル表示における、フォースとパワーの差をご理解いただけましたでしょうか?
3.7. 本章のまとめ
本章の内容をまとめると以下の様になります。
①フォースとは瞬間的な力、パワーとは一定時間に仕事をする能力である。
②音圧(フォース)のデシベル値は、音源(目覚まし時計)からの距離や、周りの温湿度及び気圧、風の影響で変わる。
③音響パワーレベル(パワー)は、音源(目覚まし時計)から放射されるパワー(単位時間当たりのエネルギー)なので、目覚まし時計からの距離や環境(気圧、温湿度、風)には一切影響されない。
④フォースとパワーで、デシベルの計算方法が異なり、フォースの方がパワーの2倍デシベル表示が大きくなる。
⑤音圧レベルと音響パワーレベルは全く異なるものなので、決して比較してはいけない。
これでデシベルについてはほぼご理解頂いたと思うのですが、もし音についてもう少し知りたい方は次にお進み下さい。
4種類もある音の大きさの表し方をご紹介します。
3. フォースとパワーでdBの値は異なる/小学生でも分かるデシベル(dB)の話