小学生でも分かるパワーとエネルギーの違い
はじめに
あの人はパワー(実行力)がある。
あの人はエネルギー(活気)が満ち溢れている。
あるいは、今後のエネルギー問題を考えるとパワーを抑制していかなければいけない、などとも聞きます。
とすると、ポパイの力がパワーで、ホウレン草の缶詰がそのエネルギー源ではないかと思うのですが、この両者の違いを明確に説明できる方は少ない様に思います。
という訳で、ここではこのパワーとエネルギーの違いを、物理の観点から分かり易く説明したいと思います。
徐々に専門的な話をしますので、もし興味がありましたら、覗いてみて下さい。
結論
それでは先に結論から言ってしまいましょう。
先ずエネルギーとは、これから力仕事を行なえる能力の事で、以下の式で求める事ができます。
エネルギー=力×高さ(距離)
これをもう少し分かり易く言うと、エネルギーとはどれだけ重い物をどれだけ高い所に持っていけるかの能力と言えます。
ですので、もし貴方が10kgf(地球上で10kgの重さのこと)の物を1m持ち上げられるとしたら、貴方のエネルギーは以下の様にになります。
貴方のエネルギー=10kgf x 1m=10kgf・m
なおこの場合、1秒で持ち上げても、1分で持ち上げても、エネルギーは同じです。
一方パワーとは、力仕事を行なえる一定時間当たりの能力の事で、以下の式で求める事ができます。
パワー=力×高さ(距離)÷掛かった時間
という事は、エネルギーを掛かった時間で割ればパワーが求められるという訳です。
ですので、もし10kgfの物を1秒で1m持ち上たら、パワーは以下の様になります。
パワー=10kgf x 1m÷1s=10kgf・m/s
またもし1分で持ち上げたら、以下の様になります。
パワー=10kgf x 1m÷60s=0.17kgf・m/s
すなわち早く持ち上げた方が、パワーは大きくなります。
これをクルマに例えると、エネルギーがガソリンで、パワーがそのガソリンを使うエンジンの能力と言えます。
なんだこんなに簡単なことだったのかと思われた方は、この項だけ読めば十分です。
もしもう少し説明がほしいなと思ったら次にお進み下さい。
エネルギー
それではエネルギーについてもう少し詳しく述べてみます。
例えば、下の図の様に地上から10mの所に10トン(10,000㎏)の水が入ったタンクがあったとします。
(多少細かくなりますが、絵では全ての水を使い切ると想定して、タンク内にある水の中心の高さから後述する水車の中心の高さまでを10mとしています。)
だとしますと、この水のエネルギー(正確には位置エネルギー)は以下の式で求められます。
水のエネルギー | =重さ×高さ |
=10,000kgf×10m | |
=100,000kgf・m |
そして、このエネルギーの100,000kgf・mとは、10トンの水を10m持ち上げる能力を指します。
ただしこのエネルギーを1時間で使い切ってしまう場合もあれば、1分で使う場合も考えられます。
そこで登場するのがパワーです。
パワー
前段で述べました様に、パワーはエネルギーを時間で割れば求められます。
ですので、もしこの水を1時間で使い切れば、下の水車のパワーは以下の様になります。
水車のパワー | =エネルギー / 時間(秒) |
=100,000kgf ・m / 3600s | |
=27.8kgf・m/s |
パワーが27.8kgf・m/sと言われも何方もピンとこないと思いますので、これをモーターやエンジンの出力を表す馬力表示に変えてみましょう。
エンジンの出力を表す1馬力は、重さ75kgfの物体を1秒間に1m持ち上げる力を指しますので、27.8kgf・m/sを馬力に変換すると、以下の様になります。
水車の馬力=27.8kgf・m/s÷75kgf×1s÷1m=0.37馬力
たったの0.37馬力と聞いて、少し驚かれたのではないでしょうか?
10トンもの水が10mも上にあっても、そのエネルギーを1時間で使うと、たったの0.37馬力しかないのです。
今どき軽自動車でも64馬力もありますので、内燃機関のパワーの大きさに圧倒されます。
これから言える事は、水力発電より火力発電の方が、より小さい施設でより大きなエネルギーを生み出せると言えるかもしれません。
次に、もし水を流すパイプをもっと太くして、10トンの水が1分で流れる様にするとどうなるか考えてみましょう。
その場合、水車のパワーは以下の様になります。
水車のパワー | =エネルギー/時間(秒) |
=100,000kgf・m/60s | |
=1666.7kgf・m/s |
これをまた馬力で表すと以下の通りです。
水車の馬力=1666.7kgf・m/s÷75kgf×1s÷1m=22.2馬力
水の流れる量を多くすれば、その分水車を使える時間は短くなりますが、パワーは上がります。
また流れる量を少なくすれば、水車のパワーは減りますが、その分使える時間は長くなります。
当然と言えば当然ですが、それを数値で表せたという訳です。
これでエネルギーとパワーの違いをお分かり頂けましたでしょうか?
すなわち、エネルギーとはパワーの元になるもので、エネルギーを何時間で使い切るかによってパワーは大きくなったり、小さくなったりするという訳です。
それにしても、ガソリンをはじめとする化石燃料のエネルギーの高さに驚きます。
ワーク
パワーとエネルギーの話をしたついでに、ワーク(仕事量)の話もしておきましょう。
ある人が、力仕事をしたとします。
どれくらい仕事をしたか量で表すとしたら、皆さんだったらどうしますか。
昔でしたら、米俵をいくつどこまで運んだか、或いはどれ位深い穴を掘ったか、或いは水をどれだけ高い所まで持ち上げたかで表すかもしれません。
いずれにしろ、重いもの(米俵、土、水)を、いかに遠くまで何かを運んだかで、働いた量(すなわち仕事量)を表せそうだなというのは、無理なくご理解頂けると思います。
まさにその通りで、物理におけるワークとは、重い物を持ち上げた力×高さで表せます。
力×高さと聞いて、どこかで同じ話を聞いた気がしませんか?
そうなのです、エネルギーと同じ式なのです。
日常の仕事ですと何日掛ったかが重要なのですが、物理におけるワーク(仕事)には時間の単位は含まないため、これはエネルギーと同じ式で且つ同じ値になるのです。
すなわち上述の水のエネルギーが100,000kgf・mだとすると、そのエネルギーを受けた水車のワークも100,000kgf・mになるという訳です。
ただし、どんなにうまく流水を水車に当てたとしても、100%エネルギーの伝達はできませんので、現実的にはエネルギー(入力)よりワーク(出力)の方が小さくなる事はご存じの通りです。
まとめ
まとめると以下の様になります。
①エネルギーとは、これから力仕事を行なえる能力で、力×高さ(距離)で表す。
②パワーとは、力仕事を行う一定時間当たりの能力で、力×高さ(距離)/時間で表す。
③エネルギーとはパワーの元になるもので、エネルギーを何時間で使い切るかによってパワーは大きくなったり、小さくなったりする。
④ワークとは、力仕事を行なった結果を、加えた力×高さ(距離)で表し、全く損失が無ければエネルギー(入力)とワーク(出力)は同じ値になる。
小学生でも分かるパワーとエネルギーの違い