塩素系と酸性タイプ洗浄剤の違い
(アルカリ性漂白剤と酸性漂白剤の違い)
2020/04: 発行
はじめに
皆さんはご存知だったでしょうか?
下はごくごく一般的なカビ取り用の洗浄剤です。
ジョンソンのカビキラーと花王のカビハイター
この横には大きく”混ぜるな危険”と書かれており、パッケージの色も赤と青ですので、よもやこの2つの洗浄剤を混ぜて使う方はいらっしゃらないでしょう。
塩素系なので、酸性タイプと混ぜるな危険の警告文
ところがどっこい。
この2つの洗浄剤は同じ塩素系(アルカリ性)で、混ぜてはいけない酸性タイプではないのです。
エッと驚いた貴方は、ラッキーです。
本書を読まなければ、この先死ぬまで、塩素系と酸性タイプ洗浄剤の違いを正確に知らなかったかもしれません。
という訳で、驚いた方は是非最後までお読み頂ければと思います。
カビキラーとカビハイター
それでは先ず、先ほどのカビキラーとカビハイターの成分を見てみたいと思います。
先ずはカビキラーです。
次はカビハイターです。
比較し易い様に、二つの成分表を同じ表に書き写してみました。
項目\商品名 | カビキラー | カビハイター |
---|---|---|
品名 | カビ取り用洗浄剤 | カビ取り用洗浄剤 |
成分 | 次亜塩素酸塩 水酸化ナトリウム(0.5%) 界面活性剤 (アルキルアミンオキシド) 安定化剤 |
次亜塩素酸塩 水酸化ナトリウム(0.5%) 界面活性剤 (アルキルアミンオキシド) 安定化剤 |
液性 | アルカリ性 | アルカリ性 |
すると何と驚く事に、一語一句全く同じなのです。
すなわち単に塩素系(アルカリ性)だというのだけではなく、成分まで全く同じなのです。
それでいてパッケージの色が全く異なるのですから、2つは違う物だと思っても不思議はないでしょう。
とは言え、ボトルと中身を入れ替えると品質保証対象外になりますので、必ず同じベンダーの物同士を使用しましょう。
家庭用品品質表示法
ところで、ここまで読まれて、何となく違和感を感じられた方はいらっしゃるのではないでしょうか?
カビキラーやカビハイターって、漂白剤じゃないの?
塩素系と酸性タイプでは、語呂が合わないじゃないの?
何故そんな名称にしたの?
全くその通りです。
その理由は、家庭用品品質表示法によってそう呼ぶ様に義務付けているからです。
ちなみに本法令における”衣料用、台所用又は住宅用の漂白剤漂”の定義は、以下の様になっています。
”衣料用、台所用又は住宅用の漂白剤漂”の定義
主たる成分が酸化剤又は還元剤から成り、衣料品等の黄ばみ、しみ等を分解し、又は変化させて白くする化学作用を有するもの。
こう書かれれば、誰も風呂場のカビ取り剤を”漂白剤”と呼ぼうとはしないでしょう。
ちなみに、”住宅用又は家具用の洗浄剤”の定義は、以下の通りです。
”住宅用又は家具用の洗浄剤”の定義
- 洗浄剤とは、[1] 酸、アルカリ又は酸化剤及び洗浄補助剤その他の添加剤から成り、[2] その主たる洗浄の作用が酸、アルカリ又は酸化剤の化学作用によるもの。
- 研磨材を含むものを除く。
恐らくこの法令を施行するに当たっては、消費者庁も事前にパブリックコメントを募ったのでしょうが、どうして誰も異議を唱えなかったのでしょうか?
謎です。
それはともかく、本書は本法令の対象外ですので、アルカリ性漂白剤とか酸性漂白剤と呼んでも良いのですが、製品のラベル表示とリンクしないので、渋々塩素系洗浄剤、或いは酸性タイプ洗浄剤と呼ばせて頂いています。
そんな訳で、以下は同じ物と思って頂ければと思います。
塩素系洗浄剤 | = | アルカリ性漂白剤 |
酸性洗浄剤 | = | 酸性漂白剤 |
また先ほどの成分表示が全く同じなのも、消費者庁のご指導の賜物(たまもの)です。
ついでお伝えしておきますと、後ほどご紹介しますpHを示す表で、塩酸や塩化ナトリウムを強酸性とか強アルカリ性と呼ばずに、単に酸性とアルカリ性と呼ぶのも消費者庁のご指導の賜物です。
カビ取りのメカニズム
次に酸性タイプの洗浄剤にはどんな物があるかお伝えして済みにしたい所ですが、折角ですので塩素系洗浄剤の漂白メカニズムについて、ここで少し勉強したいと思います。
先ず主成分の次亜塩素酸塩ですが、これはを水に溶けると次亜塩素酸(HCLO→HCl+O)になり、強力な酸化作用があります。
これによって、微生物を死滅させたり、黒カビを漂白(脱色)したりして、種々の有機物の殺菌、漂白、除臭、洗浄が可能になるという訳です。
また金属に付けると、錆びを誘発する事になります。
”次亜”とはどういう意味か?
ここまでまたまた脱線です。
次亜塩素酸の”次亜”とは、何を意味するかご存知でしょうか?
”次”は”つぎ”だとして、問題は”亜”です。
思い付くのは、亜熱帯とか亜流ですが、ご推察通り元々の”亜”の意味は”2番目”という意味なのです。
このため、化学の世界では以下の様に使われます。
化学式 | 名称 |
---|---|
HClO4 | 過塩素酸 |
HClO3 (基準) |
塩素酸 |
HClO2 | 亜塩素酸 |
HClO | 次亜塩素酸 |
いつもながら、知っても全く得しない話でした。
次に2番目の成分である水酸化ナトリウムですが、これも水に溶けるとNa+とOH-に分解し、Na+は風呂場の皮脂と結合すると石鹸と同じ界面活性剤に変わり、OH-は皮脂と結合してグリセリンに代わり、最後に水で流せば風呂場の汚れが一掃されるという訳です。
また界面活性剤とは、水にも油になじみやすい物質で、洗浄剤を風呂場にしっとりなじませる働きがあります。
酸性タイプ洗浄剤
それでは本書の主題とも言える、塩素系洗浄剤と決して混ぜて使ってはいけない酸性タイプの洗浄剤にはどんな物があるかお知らせします。
代表格は、トイレの洗浄剤です。
上は全て酸性タイプの洗浄剤ですので、前述の塩素系洗浄剤と決して混ぜてはいけません。
なお上記の洗浄剤は、pH(ペーハー)2程度の強い酸性ですが、食酢やクエン酸も弱いながらも酸性ですので、これらも塩素系洗剤と混ぜてはいけません。
pH(ペーハー)の目安
またついでにお伝えしておきますと、(上の表にはありませんが)塩素系洗浄剤はアルコールやアンモニアとも反応します。
また少々専門的になってしまいますが、この塩素系洗浄剤の主成分である次亜塩素酸塩自体はそれほどアルカリ性は強くありません。
アルカリ性が強いのは水酸化ナトリウムの方で、危険な塩素ガスを(安定化させるために)強アルカリの水酸化ナトリウム溶液に閉じ込めたのが塩素系洗浄剤と言えます。
そしてこの危険な塩素ガスを呼び出してしまうのが、酸だという訳です。
酸と混ぜると塩素ガスが飛び出す
そんな訳で、色々悩まずに塩素系洗浄剤は単独で使いましょう。
酸性タイプ洗浄剤の洗浄メカニズム
これまたついでに、酸性タイプの洗浄剤がなぜトイレの洗浄に適しているかお伝えしたいと思います。
酸が効くサンポール
その理由は、酸には尿石と呼ばれる炭酸カルシウムを溶かす力があるからです。
また、前述の塩素系では落とせないお風呂場の椅子等に付いた白い水垢(水道水に含まれるカルシウムやマグネット等が固まったもの)にも効果があります。
酸性タイプは塩素系と混ぜてはいけない
また、薄めてタイルの清掃にも適しています。
すなわち、塩素系洗浄剤は有機系(生物系)の汚れに効果があり、酸性タイプの洗浄剤は鉱物系に汚れに効果があるという訳です。
ただしくどい様ですが、必ず単独で使う必要があります。
まとめ
さてまとめです。
①カビキラーとカビハイターは、パッケージの色は全く異なるものの、中身は同じ塩素系の洗浄剤である。
②故に成分と効果が異なると思って、異なる2本を購入する必要は全くない。
③風呂場のカビや皮脂汚れや石鹸カスに効果があるのは塩素系(アルカリ性)で、トイレの尿石や風呂場の水垢に効果があるのが酸性タイプの洗浄剤である。
④塩素系が有機系、酸性タイプが鉱物系の汚れに効くと覚えておけば、分かり易い。
⑤決して混ぜて使ってはいけないのは、塩素系の洗浄剤と酸性タイプの洗浄剤であるが、これら以外でも化学反応を起こす場合があるので、いずれも単独で使用するのが一番安全で効果も高い。
本書がお役に立てば幸いです。
塩素系と酸性タイプ洗浄剤の違い
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